特別展「京都 祇園祭 ―町衆の情熱・山鉾の風流―」展中止について

このたび新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡大防止に鑑み、「京都 祇園祭 ―町衆の情熱・山鉾の風流―」展を中止いたします。
展覧会の再開催をお待ちいただいていた皆さまには誠に申し訳ございません。
かねてより、安全にお楽しみいただける本展覧会の再開催に向け模索して参りましたが、緊急事態宣言を受け、また感染症拡大に歯止めがきかない現況のなか、ご来館者や関係者の健康と安全を最優先した結果、本展覧会の再開催は困難と判断し、開催中止という苦渋の選択をさせていただきました。

なにとぞご理解を賜りますよう、お願い申しあげます。

ごあいさつ

 祇園祭の源泉は、遠く千年以上前の平安時代中期にさかのぼり、都の安寧を脅かす疫神の退散を願った祭儀に由来するとされています。それから幾多の年月を経て行く中で、祭礼にはさまざまな変化がもたらされますが、今からおよそ七百年前には山や鉾の姿が祇園祭に登場するようになります。その背景にあったのは「風流(ふりゅう)」と呼ばれた当時の美意識の高まりでした。
 風流とは、人びとを驚かせるような華やかな趣向を凝らすことを指しますが、祇園祭の行列をにぎやかな踊りや音曲で囃し美しい装飾が施された山や鉾が往来する様相は、沿道に繰り出す観衆を大いに熱狂させたのです。そして、その担い手となったのは、後に町衆と総称される都の経済を支えた商工業者たちでした。彼らの情熱は、風流の気風にのって祇園祭の山鉾巡行をより盛大なものへと成長させてゆき、現在の祭礼の姿ヘと連なるいしずえを作り上げていったのです。
 そして、戦乱の時代を経て江戸時代へと世の中が移り変わってゆくと、祇園祭もまた新たな段階へと変化してゆきます。かつては毎年のように作り替えられていた祇園祭の山鉾の趣向は様式化が進みますが、その一方で本体に飾られる装飾品はより豪華なものへと発展してゆくのです。町衆の中に受け継がれた風流の心意気は、都の経済成長と技術革新に支えられ、その文化力の影響を活かしながら、山鉾に工芸美を追求した姿を反映させてゆきます。西陣に代表される京の染織技術の発展の成果を応用した懸装品や、都の金工師らによる職人技をふんだんに盛り込んだ美しい飾金具、そして京都で活躍した一流の絵師たちが山鉾に描いた作品など、町衆が注入したその情熱は、祇園祭の山鉾を「動く美術館」と称されるまでに高めていったのです。
 この展覧会は、祇園祭の山鉾に込められた人びとの思いがテーマとなっています。日本を代表する祭りとして世界に認められた京都 祇園祭。その山鉾巡行の真髄は華麗な装飾を体現させ受け継いできた人びとの心にあります。ここに結集した山鉾の美の姿をご堪能いただければ幸いです。

基本情報

会  期:
2020年3月24日(火)~2020年5月17日(日)
【前期】 3月24日(火)〜4月19日(日)
【後期】 4月21日(火)〜5月17日(日)
休館日:月曜日(ただし5月4日(月・祝)は開館)、5月7日(木)
開室時間:
午前10時から午後6時まで。金曜日は午後7時半まで。(入室はそれぞれ30分前まで)
会  場:
京都文化博物館 4階展示室・3階展示室
主  催:
京都府、京都文化博物館、公益財団法人祇園祭山鉾連合会、京都新聞、 朝日放送テレビ、日本経済新聞社
共  催:
京都市
後  援:
(公社)京都府観光連盟、(公社)京都市観光協会、KBS 京都、エフエム京都
入 場 料:
一般 1,500円(1,300円) 大高生1,100円(900円) 中小生500円(300円)
※(  )は前売券及び20名以上の団体料金
※未就学児は無料。(要保護者同伴)
※前売券は2019年20年3月23日(月)まで販売。(会期中は当日券のみ)
※障害者手帳等をご提示の方と付き添い1人までは無料
※学生料金で入場の際には学生証をご提示ください
※上記料金で、2階総合展示と3階フィルムシアターもご覧いただけます。(催事により有料の場合があります)

【主な入場券販売所】
京都文化博物館、チケットぴあ(Pコード:685-018)、ローソンチケット(Lコード:53595)、セブンチケット、CNプレイガイド、ABC ぴあ、e+(イープラス)他で販売

ペアチケット
2,400円(前売期間中販売、一般のみ、1名で2回使用も可)
ペアチケット販売:京都文化博物館、チケットぴあ(Pコード:685-018)、ローソンチケット(Lコード:53595)、セブンチケット、CNプレイガイド、ABC ぴあ

 

展示構成

序章 描かれた山鉾巡行

 中世に登場した祇園祭の山鉾巡行は、都の夏を彩る風物詩として都の人びとに認められ、それらはやがて夏の画題として絵師たちの描く絵画の中に配置されるようになっていった。例えば祇園祭礼図屏風には、祇園祭の山鉾巡行や神輿渡御の様子が町並みと共に描かれており、屏風として仕立てられた祇園祭の山鉾巡行の様相は、鑑賞者に対して祭礼の魅力をより豊かに伝える作用を及ぼした。山鉾巡行の姿が描かれた背景には、それを描きたいと望む絵師たちの渇望と、その様を見たいと思う鑑賞者たちの欲求があった。祇園祭の華麗な山鉾巡行は、いつの世にも人びとの心を動かしてきたのである。

江戸時代の祇園祭の全体像を描いた屏風祇園祭礼図屏風(右隻)祇園祭礼図屏風(右隻)17 世紀後半 細見美術館

幕末に祇園祭に登場した全ての山鉾が描かれた絵巻祇園祭礼絵巻 冷泉為恭 筆(部分)祇園祭礼絵巻 冷泉為恭 筆(部分)嘉永元年(1848) 國學院大學博物館

第一章 記録される祇園祭と山鉾巡行

 祇園祭は、その創始以来数多くの記録に残されてきた。特に山や鉾については、装飾品の寄進や新調に関する記載が克明に記された道具帳や、山鉾の改修などに伴い作成された図面、祇園祭の作法や年々の祭りの様相を記録したもの、そして山鉾の由緒書など、さまざまな形でその様相が書き残され、往時の姿を知る貴重な史料ともなってきた。また祇園祭は『祇園御霊会細記』をはじめさまざまな刊本に取り上げられ、その記述はより多くの人びとを魅了してゆくようになるのである。

大屋根が据えられる前の北観音山の姿を示した図面 北観音山古絵図 北観音山古絵図 京都市登録文化財
江戸時代中期
公益財団法人北観音山保存会

江戸時代の大船鉾の先頭部分の姿を描いた図絵 大船鉾図 岡本豊彦画 大船鉾図 岡本豊彦画
江戸時代後期
公益財団法人大船鉾保存会


祇園祭の様子を紹介した江戸時代の観光案内書『都名所図会』『都名所図会』
安永9年(1780)
京都府


第二章 山鉾を彩る~飾金具の競演~

 祇園祭の山鉾には数々の装飾が施されているが、その中でも金色に輝く飾金具は山鉾の豪華さを演出しその魅力を増進させている。山鉾の周囲を飾る欄縁の装飾や、四隅を飾る角飾金具、あるいは見送に装着される金具など、山鉾の随所に施された金具には、細部にわたって職人たちの技巧の粋が込められており、遠景から感じられる見事さはもとより、沿道の見物人には見えない部分にまでこだわった細工によって、より濃密な装飾の世界が創成されているのである。

浄妙山の御神体人形がまとった室町時代の鎧黒韋威肩白胴丸 大袖喉輪付黒韋威肩白胴丸 大袖喉輪付
重要文化財
室町時代
公益財団法人浄妙山保存会

古来珍重された八種類の果実をモチーフとした鶏鉾の角飾金具角飾金具 成物尽文様八珍果文様角飾金具 成物尽文様八珍果文様
重要有形民俗文化財
文政8年(1825)
公益財団法人鶏鉾保存会


天王座に祀られている月読尊が持つ櫂と「元亀四年」の年号銘をもつ月鉾の鉾頭櫂 銅製金鍍金 鉾頭 銅製金鍍金月形櫂 銅製金鍍金/鉾頭 銅製金鍍金月形 大錺屋勘右衛門作
元亀4年(1573)
公益財団法人月鉾保存会

菊花を細く透し彫りした伯牙山の角飾金具 角飾金具 菊唐草透し彫り文様角飾金具 菊唐草透し彫り文様 重要有形民俗文化財
嘉永6年(1853)一般財団法人伯牙山保存会


第三章 山鉾を彩る~懸装品の美~

 祇園祭の山鉾を飾る装飾品として最も高名なのが山鉾に懸けられる様々な懸装品である。山鉾の周囲を飾る懸装品は、十六世紀のヨーロッパで製作されたタペストリーをはじめ、ペルシャやインド、そして中国などで製織された品物が懸装品として利用され、その来歴の多彩さや異国情緒あふれるデザインが珍重されてきた。
 しかし、祇園祭の山鉾に装備される懸装品は舶来のものばかりではなく、日本で製作された品々も次第に用いられるようになってゆく。そこには日本で培われた染織技術の発展過程を垣間見る事ができる。

16世紀のベルギーで織られ日本に伝わった鶏鉾の見送鶏鉾飾毛綴鶏鉾飾毛綴 重要文化財 16 世紀
公益財団法人鶏鉾保存会

祇園祭鶏鉾の見送らと分かれ長浜に伝わったタペストリー長浜祭鳳凰山飾毛綴長浜祭鳳凰山飾毛綴
重要文化財
16 世紀
鳳凰山魚屋町組


鯉山の背後を飾るタペストリー鯉山飾毛綴(見送)鯉山飾毛綴(見送)
重要文化財
16 世紀
公益財団法人鯉山保存会


保昌山の前面を飾る懸装品の下絵蘇武牧羊図 屏風(円山応挙筆)蘇武牧羊図 屏風(円山応挙筆)京都市指定文化財
安永2年(1773)公益財団法人保昌山保存会

保昌山を飾る円山応挙下絵の懸装品前懸(旧)緋羅紗地蘇武牧羊図 刺繍前懸 緋羅紗地蘇武牧羊図 刺繍
安永2年(1773) 公益財団法人保昌山保存会


第四章 神格化される祇園祭の山鉾

 山鉾のしつらえは当初風流の趣向として始まったものだが、中世後期になると次第に固定化され、それと共に山鉾の由緒や搭載されている人形に対して人びとの信仰が集積されてゆくようになる。そして現在、祇園祭に登場するそれぞれの山鉾にはさまざまな物語が付与されており、また据えられる人形らは崇敬の思いを込めて御神体人形と呼ばれるようになった。風流の趣向として始まった祇園祭山鉾の意匠は、神格化によって新たな意義を付与されながら町衆の手によって育まれ、現代まで脈々と受け継がれているのである。

祇園祭山鉾町に伝わる現存最古の衣装綾地締切蝶牡丹文様片身替 小袖綾地締切蝶牡丹文様片身替 小袖
重要文化財
天正17 年(1589)
公益財団法人芦刈山保存会

郭巨山の御神体人形である郭巨像がまとっていた衣裳御神体旧衣裳 郭巨様御神体衣裳
寛永18 年(1641)
公益財団法人郭巨山保存会


色とりどりの草花が円形に描かれている船鉾の天井板船鉾屋形格天井 金地四季花の丸図船鉾屋形格天井 金地四季花の丸図 重要有形民俗文化財
天保5年(1834) 公益財団法人船鉾保存会

祇園祭を象徴する長刀鉾の稚児がまとう衣装 長刀鉾稚児衣裳 長刀鉾稚児衣裳
重要有形民俗文化財
現代
公益財団法人長刀鉾保存会


第五章 近代化と祇園祭の山鉾

 京都はたびたび火災が起こったが、元治元年(一八六四)の蛤御門の変では京都市街が大火にみまわれて多くの山鉾が焼失した。その後、明治維新で都が東京に移ったことによって政治や経済や文化を担う人材の多くが京都を去り、また祇園祭も従前からの財政および人的扶助を喪失したこともあって復興がままならなかった。それでも山鉾を出す町衆はあきらめることなく、少しずつ山鉾を復興させていった。そしてそこには、新しい時代に京都で活躍していた芸術家たちが携わっていた。祇園祭は近代化によって大きな変革を強いられてきたが、町衆はその困難に挑みながら山鉾の復興に尽力し、なおかつ最高峰の美を追い求める姿勢を受け継いでいったのである。

蟷螂山に搭載されていたかまきり かまきり(旧) かまきり(旧) 京都市指定文化財
19世紀中頃 蟷螂山保存会


今尾景年が手掛けた岩戸山の大屋根の軒下裏絵 軒裏絵 金地四季草花図(部分) 軒裏絵 金地四季草花図(部分)軒裏絵 金地四季草花図 今尾景年 筆 重要有形民俗文化財
大正7年(1918)公益財団法人岩戸山保存会


孟宗山の背後を飾る竹内栖鳳肉筆の見送 見送 白綴地墨画孟宗竹藪林図(竹内栖鳳筆) 見送 白綴地墨画孟宗竹藪林図 竹内栖鳳筆 重要有形民俗文化財
昭和15 年(1940)孟宗山保存会

十六弁の菊花があしらわれた菊水鉾の鉾頭 見送 白綴地墨画孟宗竹藪林図(竹内栖鳳筆) 鉾頭 小林尚珉 作
昭和27 年(1952)公益財団法人菊水鉾保存会


終章 そして新しい時代へ

 幕末の大火とその後の社会変動によってダメージを負った祇園祭は、新時代に対応しつつ徐々にその体制を整えてゆき、焼失した山鉾も少しずつ復興された。そして第二次世界大戦を挟んで昭和時代の後期以降には、失われていた山鉾を復活させる動きが加速した。祇園祭の山鉾巡行は長い歴史を誇る祭礼であるが、それは古式ゆかしいという言葉では納まらない魅力を持っている。室町時代には風流の趣向として毎年のように出し物が変化し、その意識は江戸時代になって絢爛豪華な装飾品をしつらえる方向へと受け継がれてゆき、現在でもまた山鉾の復活や懸装品の新調など新たな話題を提供してくれる。祇園祭の山鉾巡行は町衆の情熱とともに今も生きているのである。

鷹山の人形の詳細図 見送 白綴地墨画孟宗竹藪林図(竹内栖鳳筆) 御神体人形図 天保2年(1831)公益財団法人鷹山保存会

【音声ガイド】

細谷佳正
photo
奥本昭久(kili office)

人気声優・細谷佳正さんが出演。特別展「京都祇園祭」と祇園祭山鉾の魅力を声で紹介します。

料  金:
1台600円(税込)

細谷佳正
1982 年生まれ。広島県出身。主な出演作は『この世界の片隅に』、『機動戦士 ガンダム鉄血のオルフェンズ』など。洋画の吹替やナレーションなど幅広く活躍中。第8 回(2014 年)、第10 回(2016 年)声優アワード助演男優賞受賞。

 

「郭巨山」「橋弁慶山」実物展示
期  間:
3月24日(火)〜4月5日(日)
会  場:
京都文化博物館 別館ホール
時  間:
午前10時から午後6時まで
入 場 料:
無料

郭巨山
郭巨山

橋弁慶山
橋弁慶山

 

「京都祇園祭 ―町衆の情熱・山鉾の風流」目録


関連催事

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う「京都 祇園祭 ―町衆の情熱・山鉾の風流―」
関連行事の延期・中止のお知らせ

このたび開催を予定しておりました「京都 祇園祭 ―町衆の情熱・山鉾の風流―」関連行事ですが、新型コロナウイルス感染症が拡大している現状を受け、参加者および関係者の健康と安全を第一に考慮し、開催する行事につきましては下記を除き中止することといたしました。
楽しみにしてくださった皆さまには誠に申し訳ございませんが、ご了承くださいますようお願い申しあげます。

記念講演会「京都祇園祭の魅力」

※中止させていただきます。

期  日:
2020年5月10日(日) 14:00〜 (受付・開場 13:30〜)
 ※4月11日(土)から日時を変更させていただきました。
会  場:
京都文化博物館 別館ホール(会場が変更になりました)
講  師:
橋本 章(当館学芸員)
参  加:
当日先着100名様
料  金:
無料(ただし本展覧会入場券〔半券〕のご提示が必要です)