祇園祭-
2015.11.14(土) 〜 2016.1.24(日)
木賊山は、世阿弥の作といわれる謡曲「木賊」を題材とした意匠をもつ山です。「木賊」は、信濃国で木賊を刈る翁が、生き別れになった子を慕って舞を舞うという物語で、親子の再会が主題となっています。木賊山には、別れた子を思いながら木賊を刈る老翁の姿が、御神体人形として搭載されています。鎌を持つ御神体の周囲には、青々と棒状に起立した木賊の様子が表現されており、祇園祭に登場する山鉾の中でも特徴ある情景を演出しています。
木賊山を飾る品々にも特徴的なものがあります。胴懸には杜甫の詩「飲中八仙歌」を題材とした「松蔭仙人図」と「仙人観楓図」が描かれた綴織が用いられるほか、前懸の「金地綴錦唐人市場交易図」や見送の「牡丹鳳凰雲文綴織」は緻細な表現が見事な懸装品です。そして、山の周囲を飾る水引には、蝦蟇仙人や寿老人や西王母などの姿を中心にした絵が刺繍であしらわれ、豪華さを際立たせています。また、木賊に兎と波文様を鍍金であらわした見送房掛金具や、軍扇の形に木賊と兎の文様をかたどった角飾金具などは、木賊山ならではの造形美を誇ります。
この展覧会では、京都が最も美しく彩られる秋にちなんで、秋の季語である「木賊刈る」を彷彿とさせる物語の「木賊」に取材した、木賊山の名宝を紹介します。
木賊は「砥草」などとも書き、研磨材として昔から珍重されてきた植物です。秋になると生育した木賊の青く強い茎を刈り取り、乾燥させて用いました。木賊山の意匠の題材となった謡曲「木賊」には、信濃国園原でひとり寂しく木賊を刈る老翁が登場します。彼は過去に愛する子と別れ別れになっており、その子が好んでいた舞の所作を思い出しながら「木賊刈る 山の名までも 園原や 伏屋の里も 秋ぞ来る」と謡うのです。この歌詞には元歌があり、それは平安時代の人物である源仲正の「木賊刈る 園原山の 木の間より 磨かれ出づる 秋の夜の月」であるとされています。
「木賊」は、生き別れになった親子の再会の物語ですが、その背景となった歌には秋の季節が巧みに詠み込まれています。木賊山のしつらえの中には、木賊に兔をあしらった飾金具や、真松に吊り下げられる満月を模した月形などがみられます。源仲正の歌にも見られる「・・・よりみがき出ぬ 秋の夜の月」にもあるように、秋に刈り取られる研磨材である木賊から、みがき出されたような美しい月を連想させ、そして月にゆかりのある生き物の兔へとつながるのでしょう。歌の心を知る人にはその隠された季節感を感じ取れる演出が、木賊山には用意されているのです。