信仰の美
2022.12.17(土) 〜 2023.2.5(日)
わが国に仏教が伝来して以降、貴賤を問わない人々が、それぞれの祈りを筆に託して、経典の書写を行ってきました。これは、写経という行為そのものに大きな功徳が宿ると、経典に説かれていたためにほかなりません。これら経文を書き写すという営みは、その規模や目的、書写の方法など様々に展開しながら、古代から現代に至るまで連綿と続けられてきました。そして、敬虔な信仰から生み出された品々は、私たちの心を揺さぶるような美しさを時として現します。
今回の展示では、古写経や石経などの実際に書き写された経文と、当時の人々の信仰にまつわる資料を紹介することで、祈りの世界に宿る美しさの一端に迫ります。ひとことに経文の書写と言っても、素紙に墨書したものだけでなく、華麗な料紙を用いるもの、末法思想を背景として粘土板に文字を刻むものなど、材質の違いにも注目されます。印刷技術の発展とともに大陸からもたらされ、また、国内で開板された版経も、独特の味わいを有します。それぞれの経巻に添えられた願文からは、祈りの目的も見えてくるでしょう。
本展が、豊かな祈りの世界に触れていただく機会となりましたら幸いです。
書写によって大きな功徳が得られると信じられた大般若経。伝来以降、盛んに書き写されました。
装訂や料紙の風合い、筆致の美しさなど、鎌倉時代を代表する大般若経です。
地中ふかくに埋められた経典。大般若経がびっしりと書き込まれています。
室町時代に書写された一切経。祐覚なる大和国の僧が筆を執りました。
天神さまの功徳を称える語り。美しい料紙にも注目です。
大陸よりもたらされた如意輪観音像。池大雅が終生大切にした念持仏です。