祇園祭-孟宗山の名宝-
2015.1.20(火) 〜 4.5(日)
祇園祭には、唐渡りの故事の場面を再現した意匠を持つ山が登場しますが、親孝行にまつわる逸話を集約した『二十四孝』から、「孟宗」の物語を題材にしているのが孟宗山です。孟宗山には、母のために雪の中から筍を掘り当てる孟宗の様子が御神躰人形としてあらわされており、盛夏に巡行する祇園祭の山鉾にあって、雪を表現したその様相は、とりわけ注目を集めています。
そして、京都画壇で活躍した絵師たちにゆかりの作品が山を飾るのも孟宗山の特徴です。中でも山の背面を飾る大きな見送には、近代日本画の大家である竹内栖鳳(1864-1942)の渾身の作である「孟宗竹藪林図」が飾られます。また、孟宗山の周囲を彩る欄縁や見送幕を懸ける鳥居の飾金具は、竹内栖鳳の師でもあった京都画壇の重鎮幸野楳嶺(1844-1895)の下絵を元に鮮やかに造形されています。そのほかにも孟宗山には、大陸伝来の生地を用いた懸装品や美しい飾金具が数多く継承されてきており、見るものを魅了しています。
孟宗山には、親子の絆を題材とした孝行の物語を表現する演出と共に、華麗な装飾品の数々が受け継がれています。今回の展示を通じて孟宗山の魅力に触れ、また祇園祭の歴史や文化の奥深さを感じていただければ幸いです。
孟宗山を出す笋町(京都市中京区烏丸通四条上ル)には、懸装品や美しい飾金具が数多く伝え残されてきており、見るものを魅了しています。殊に有名なのは山の背面を飾る大きな見送で、そこには竹内栖鳳(1864-1942)の肉筆による「孟宗竹藪林図」が鮮やかに描かれています。平成26年には、この肉筆を原画とした綴織の見送が製作されました。また「波濤に飛龍文様綴織」の前懸や、「群鳥飛翔図綴織」の水引などは、江戸時代に大陸の王朝官僚の服を仕立て直したものであり、ほかにも「西王母と寿老人の図」と「虎渓三笑図」をそれぞれ綴織であらわした文化5年(1808)製作の胴懸や、明朝末期に製作された「鳳凰と幻想動物に牡丹図」を刺繍でしつらえたタペストリーを江戸時代に見送に仕立てたものなど、孟宗山には近世期に作られた美しい懸装品が数多く伝来しています。
また、豪華な鍍金飾金具がふんだんに用いられているのも孟宗山の魅力のひとつです。山の周囲に懸けられる木製黒漆塗の欄縁には、幾羽もの鳥が戯れる構図の飾金具が散りばめられていますが、この欄縁と共に、見送幕を懸ける鳥居にも牡丹菊文様の重厚な飾金具が装着されています。これらは、京都画壇で活躍した幸野楳嶺(1844-1895)の下絵を元にしたものです。そのほか「猿に桃」や「牡丹に蜂」など8種類の異なる意匠をもった角飾金具や、見送の裾を飾る9種類の金具、そして「筍」の文字をあしらった山を担う棒の轅先金具など、妙味あふれる飾金具が随所に施されているのも孟宗山の特徴です。
『二十四孝』は、親孝行に尽くした人物の物語を二十四編集めた書物で、大陸から日本にもたらされた後、絵画などの美術品の題材になったり、寺子屋での教材や歌舞伎の外題に取り入れられたりするなどして、人びとに広く親しまれました。中でも「孟宗」は、母親への孝心あふれる主人公の孟宗の姿が、心に深く染み入るお話です。
「孟宗」の物語は次のような内容です。幼い頃に父親を亡くし、女手一つで母に育てられ成長した孟宗は、年老いて病気になった母を慈しみ、母の求めに応えんと、筍を探しに雪深い山に分け入ります。しかし真冬に筍があるはずもなく、それでも孟宗は、天に祈りながら落涙しつつ雪を掘っていたところ、祈りが天に通じたのか、雪が融けて筍を掘り当てることができたのでした。
孟宗山の御神躰は、雪まみれになった孟宗が、掘り当てた筍を抱えて母の元に帰らんとする様子があらわされており、孟宗山は、その故事にちなんで「笋(たけのこ)山」と呼ばれました。
平成26年度 2階総合展示「京のまつり」祇園祭-孟宗山の名宝-
■前懸 波濤に飛龍文様綴織官服裁断片 江戸時代後期 | 重要有形民俗文化財 後期 |
■胴懸 仙境山水人物図綴織(東面)「西王母と寿老人の図」/(西面)「虎渓三笑図」 文化5年(1808) |
重要有形民俗文化財 後期 |
■見送 鳳凰と幻想動物に牡丹図中国刺繍掛物 江戸時代 | 重要有形民俗文化財 前期 |
■見送 白綴地墨画「孟宗竹藪林図」(竹内栖鳳筆) 昭和15年(1940) | 重要有形民俗文化財 後期 |
■水引 群鳥飛翔図綴織官服直し 江戸時代 | 重要有形民俗文化財 後期 |
■欄縁 木製黒漆塗百鳥文様鍍金金具付 (幸野楳嶺下絵) 明治4年(1871) | 重要有形民俗文化財 前期 |
■見送掛鳥居 木製黒漆塗牡丹菊文様鍍金金具付 (幸野楳嶺下絵) 明治23年(1890) | 重要有形民俗文化財 前期 |
■轅先金具 筍字銅鍍金 文久3年(1863) | 重要有形民俗文化財 前期 |
■角飾金具 猿に桃・菊に鳥・鹿・牡丹に蜂 文政7年(1824) | 重要有形民俗文化財 前期 |
■見送裾飾金具 蛙・鯉・鮎・千鳥・セキレイ・亀・蟹・カワウソ・鴛鴦 明治時代 | 重要有形民俗文化財 後期 |