京・後藤家の軌跡
2018.7.7(土) 〜 9.9(日)
後藤家は祐乗を始祖として、室町時代の足利義政のころに興り、以後十七代で江戸時代末期に及んだ一族です。祐乗以来、後藤家は日本の金工界をリードし、足利氏、豊臣氏、徳川氏と密接な関係を結びながら多くの分家を創出しました。この多くの分家のうち、宗家五代の徳乗の弟・長乗から展開した一統が、本展覧会で光をあてる後藤勘兵衛家です。
後藤勘兵衛家の二代・覚乗は、たくみな技術で刀装具の制作を手がけ、また、その技術を見込まれ、加賀藩・前田利常に招かれました。以後、従兄弟の顕乗と交代で隔年に金沢と京都を往復し、加賀後藤と呼ばれる金工の流派の基礎を築きました。
また、後藤家は、金工だけでなく、金座や分銅についても家職とし、勘兵衛家を含む分家の中でもこの分野と関わりを結んだ家々がありました。国内有数の金工師でありながら、屈指の実業家であった点が、前近代における後藤家の大きな特徴といえるでしょう。
近年、後藤勘兵衛家の伝来資料群が京都府に寄贈されました。本展ではご寄贈いただいた「後藤勘兵衛家旧蔵資料」をと中心として、金工師・豪商として活躍した後藤勘兵衛一族の姿を紹介いたします。
後藤勘兵衛家に伝来した資史料の中には、勘兵衛家成立以前の徳乗や、覚乗に関するものが含まれます。それらは、軸装されて人々に共有される図像となったり、また彫像として氏寺に寄進され、信仰の対象となったりしました。
これらのものは系図などと並び、一族の歴史を物語る象徴的な威信財(権威を示す象徴物)であり、多くの子孫に一族の結束を表現する機能をもっています。
後藤家の始祖・祐乗[1440~1512]は、巧みな金属工芸の技術を駆使し、足利義政に仕えました。目貫(めぬき)・小柄(こづか)・笄(こうがい)の三所物(みところもの)の意匠・技法に新機軸を打ち出し、金工を家職として歴史に名を残します。
分家である勘兵衛家でもこれは同様で、覚乗、悦乗、演乗などの名工を輩出しました。また、勘兵衛家初代・覚乗の父、長乗は、徳川家と接近し、慶長13年(1608)の方広寺大仏造営事業の時、大仏大判の鋳造を一手に引き受けました。後藤家の持つ巧みな金属加工の技術が、金銀貨の鋳造技術と結びつき、家職の安定をもたらしたといえます。
室町時代からの名家である後藤家は、当然ながら時の為政者や権力者と強く結びつきました。今回紹介する資料の中には、加藤清正や、小堀遠州らの書状があり、それらはいずれも、後藤家と緊密な関わりを物語るものです。
また加賀前田家との関わりは格別なものがあり、初代・覚乗は、加賀藩に招かれ、前田家の装剣用具の製作ほか藩政にも深くかかわりました。前田家と後藤家の良好な関係は以後長く継続し、前田家歴代当主から勘兵衛家に宛てた数々の書状が巻物に仕立てられ、今も伝えられています。
第1章 一族の結合
名称 | 成立年代 | 所蔵 | 員数 | 展示期間 |
---|---|---|---|---|
後藤家譜 | 江戸時代 17世紀 | 一巻 | 通期 | |
系図 | 江戸時代後期 18世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一枚 | 通期 |
後藤庄三郎より一札カ条ノ控 | 原本:慶長元年(1596)3月 | 後藤家蔵(京都大学総合博物館寄託) | 一冊 | 前期 |
後藤徳乗書状 | 江戸時代 17世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一幅 | 通期 |
後藤家庭園図 | 江戸時代末期〜明治時代 19−20世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一枚 | 通期 |
後藤家屋敷及び庭園図 | 江戸時代末期 19世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一枚 | 通期 |
後藤長乗夫妻像 | 江戸時代前期 17世紀 | 常徳寺 | 二躯 | 通期 |
後藤徳乗像 | 寛永8年10月13日 | 後藤家蔵(京都大学総合博物館寄託) | 一幅 | 前期 |
楊弓の的型 鏡 | 嘉永4年(1851)寄進 | 常徳寺 | 一点 | 通期 |
第2章 金工師として
名称 | 成立年代 | 所蔵 | 員数 | 展示期間 |
---|---|---|---|---|
刀 銘加州住藤原光国 | 江戸時代前期 17世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一振 | 通期 |
笄図 | 江戸時代末期〜明治時代 19−20世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一点 | 通期 |
刀装具取調書 | 江戸時代末期〜明治時代 19−20世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一枚 | 通期 |
刀装具取調書 | 江戸時代末期〜明治時代 19−20世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一枚 | 通期 |
目貫 | 江戸時代末期〜明治時代 19−20世紀 | 後藤家蔵 | 三点 | 通期 |
金具 | 明治6年(1873) | 後藤家蔵 | 一点 | 通期 |
系図書并彫物秘伝書 | 江戸時代中後期 18−19世紀 | 後藤家蔵(京都大学総合博物館寄託) | 一冊 | 前後期 冊替 |
金座極印 | 江戸時代前期 17世紀 | 個人蔵(後藤家) | 五点 | 通期 |
慶長小判 | 江戸時代 17世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 七点 | 通期 |
百両大判模型 | 江戸時代後期 19世紀 | 後藤家蔵(京都大学総合博物館寄託) | 一点 | 前期 |
五拾両大判模型 | 江戸時代後期 19世紀 | 後藤家蔵(京都大学総合博物館寄託) | 一点 | 後期 |
拾両大判模型 | 江戸時代後期 19世紀 | 後藤家蔵(京都大学総合博物館寄託) | 一点 | 後期 |
墨判書付 | 江戸時代後期 19世紀 | 後藤家蔵(京都大学総合博物館寄託) | 一点 | 前期 |
第3章 大名家との交流
名称 | 成立年代 | 所蔵 | 員数 | 展示期間 |
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片桐且元・前田利光等書状巻 | 江戸時代 17世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一巻 | 通期 |
小堀遠州 書状(後藤覚乗宛) | 江戸時代 17世紀(無年号)9月19日 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一幅 | 通期 |
小堀遠州 書状(後藤勘兵衛宛) | 江戸時代 17世紀(無年号)8月8日 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一幅 | 通期 |
小堀遠州勘弁・後藤覚乗書状 | 江戸時代 17世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一幅 | 通期 |
加藤清正 書状(後藤勘兵衛宛) | 江戸時代 17世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一幅 | 通期 |
大名衆より銀子返弁割符帳 | 天和2年(1682)〜貞享2年(1685) | 後藤家蔵(京都大学総合博物館寄託) | 一冊 | 後期 |
御懇之御書(二巻之内) | 江戸時代 17〜18世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一巻 | 通期 |
前田家歴代御書集 | 江戸時代 17〜18世紀 | 京都府(京都文化博物館管理) | 一巻 | 通期 |