近現代の型染
2023.4.15(土) 〜 6.11(日)
型染は、紙などにさまざまな文様を彫った型紙をもちいて生地を染める技法です。
鎌倉時代から南北朝にそのルーツを求めることができる型染は、桃山時代に技法的な完成をみたあと、江戸時代に完成度が高くなり、人々の衣生活を彩りました。近代になり、化学染料が取り入れられると、多色染が可
能になり、型染の世界には大きな可能性が開かれます。本展では、型を用いる染色のうち特徴的な技術として、小紋染、型友禅、紅板締により染められた近現代の着物の優品をご紹介します。
小紋染は、渋紙に文様を彫って生地に糊を置き、糊のついていない部分を染料で染めるという技法です。武家の礼服である裃に用いられたことから発展し、やがて町人の小袖にも好まれるようになりました。遠目には無
地に見えるほど精緻な文様が染められた小紋染の着物には、上品さと奥深い魅力をたたえています。
型友禅は、高価な手描友禅を補完する技法としてあらわれ、多色の文様染の普及に大きな役割を果たしました。多い場合は型を何十枚も用いて細密な文様を表すこともあり、高い技術力を必要とする染色技法です。
本展覧会では、京友禅協同組合連合会の協力で京都府の所蔵する型友禅の下絵をもとに制作した型友禅工程見本もあわせてご紹介します。
紅板締(べにいたじめ)は、江戸時代後期から明治時代にかけて盛んに行われた染色技法の一つです。文様を彫刻した型板(かたいた)に生地を挟んで締枠(しめわく)で固定し、型板に彫った溝に紅の染液を流しこむことで、文様を染めるというものです。
花々や蝶などさまざまな文様が白く染め出された襦袢や下着等は、女性たちのきものに彩りを添えました。紅板染は、染織技術やデザインの発展によって昭和初期に生産を終え、技法としての知名度は非常に低いといえま
すが、京都の染色の歴史を語る上で欠くことのできない重要な存在です。
型を用いるという共通点をもちながら、全く異なる発展をとげた小紋染、型友禅、紅板締それぞれの染色の魅力を味わっていただきたいと思います。
小紋染
江戸時代末期から明治時代前期にかけての女性の着物は、黒や鼠(ねずみ)色など地味な地色のものが主流であったが、地味な表着(うわぎ)と、胴の部分が華やかな下着を揃えてあつらえることが行われた。 本資料も、そのような装いに用いられた下着であると考えられている。つまり、失われてしまってはいるが、かつては本作品の裾部分の重ね菊の小紋染を全体にあらわした表着があったのであろう。 胴と袖の部分に手描友禅であらわされた大輪の菊にも、明治時代らしい写実性の高い表現がみてとれる。
紅板締
裾に手描友禅で水辺の風景をあらわした、二枚襲の着物の下着であろうと考えられる作品。胴と袖の部分に、雪輪と竹の文様があらわされた大胆な紅板締の裂を用いている。紅板締では技法上、型板の側面にあたる部分が防染できない部分として帯状にあらわれる例が多いが、この作品では、防染できない部分を竹の幹として巧みにデザインに取り込んでいる。なお、女性たちは室内でくつろぐ際にはこのような下着の姿で過ごすこともあったといわれる。
型友禅
本作品は、京友禅協同組合連合会の協力で京都府の所蔵する型友禅の下絵をもとにした復元的制作資料である。37枚の型を用いて、霞と菊や牡丹などの文様をあらわしている。工程見本の各工程を見比べることで、染められた部分に少しのずれもなく文様が形としてあらわれていくさまがわかる。