祇園祭-
2016.10.29(土) 〜 2017.1.15(日)
芦刈山は、「芦刈」という物語に取材した意匠を持つ山で、別れた夫と再会する妻の夫婦和合の姿がモチーフとなっています。御神体人形は芦を刈る翁の姿で、その周囲には芦が立てられ一面の芦原を表現しているのも芦刈山の特徴のひとつです。
芦刈山を出す芦刈山町(下京区綾小路通西洞院西入)には、天文6年(1537)の墨書銘が残る御神体人形の頭が現存し 、また御神体衣裳の「綾地締切蝶牡丹文様片身替小袖」にも天正17年(1589)の銘がみられるなど、長い祇園祭の歴史と伝統を体現する貴重な品々が大切に伝え残されてきています。
今回の展覧会では、芦刈山が持つ貴重な文化財の中から、選りすぐった品々を公開し、その魅力を紹介します。この展覧会を通じて祇園祭の歴史や文化の奥深さの一端に触れていただければ幸いです。
芦刈山には数々の名品が伝えられていますが、中でも特筆されるのが重要文化財の御神体衣裳「綾地締切蝶牡丹文様片身替小袖」です。白と黄色、そして萌黄の配色は美しく、襟裏には「天正十七己丑年六月吉日」という墨書銘が残っており、これは祇園祭に参加する全ての山鉾に現存する衣装の中でも最も古いものです。
また芦刈山には、欧州の風景を描いた4枚の毛綴を継いで作られた「欧風景」の前懸、中国の官僚の服の刺繍部分を仕立て直した波濤に飛龍文様の胴懸など、歴史を感じさせる名品が数多く伝わるほか、日本画家の山口華楊が母校の京都市立格致小学校に寄贈した作品を元にした前懸「凝視」や、平成5年と6年に尾形光琳の燕子花図を原画とした胴懸などを製作し、新たな芦刈山の姿を披露しています。
そのほかにも芦刈山には、明治36年(1903)に河辺華挙の下絵を元に製作された波に雁文様の欄縁飾金具など、美しい装飾品が数多く伝え残されています。
芦刈山には、芦を刈る老翁の姿の御神体人形が搭載されます。「芦刈」という物語は、平安時代に成立した歌物語集『大和物語』の第148段に収められているもので、その後謡曲などに編成され広く親しまれてきた説話です。
物語では、難波に住む夫婦が貧しさ故に離縁し、妻は都で宮仕えの職を得て豊かな暮らしを手に入れますが、夫は貧困のまま芦を刈り売る事を生業としています。妻は夫の消息を探しますが、落ちぶれた姿を恥じる夫は隠れます。夫は妻に「君なくて あしかりけりと 思ふにも いとど難波の 浦ぞ住み憂き」という歌を詠みます。この歌は妻を思う夫の優しさと芦を刈る暮らしの辛さが表現されたものとされますが、後世この物語は謡曲に仕立てられて、妻からの歌が追記されます。芦刈山では、妻からの歌を「あしからじ よからんとてぞ 別れにし なにか難波の 浦は住み憂き」として、夫婦が縁を戻し連れ添って都へと向かうという結末の物語が語られています。
別れてもなお、互いを思い合う夫婦の絆を主題とした、この「芦刈」の物語に取材した芦刈山は、夫婦和合の姿を体現する山として、都の人びとから愛されてきたのです。
「祇園祭 — 芦刈山の名宝 —」展 出品資料一覧【PDF 87.4KB】
資料名 | 時代 | 指定等 | 展示期間 |
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綾地締切蝶牡丹文様片身替 小袖 | 天正17年(1589) | 重要文化財 | 前期 |
黄地丁字唐草文様小袖 | 重要有形民俗文化財 | 後期 | |
萌葱紗上衣 | 昭和50年(1975) | 重要有形民俗文化財 | 後期 |
紺地雲龍文様綾地金襴 大口 | 重要有形民俗文化財 | 後期 | |
紺地龍木瓜巴文様刺繍帯 | 昭和61年(1986) | 重要有形民俗文化財 | 後期 |
見送 唐子嬉遊図 | 文政3年(1820) | 重要有形民俗文化財 | 前期 |
見送 鳳凰と幻想動物に牡丹の図 | 16世紀後期 | 重要有形民俗文化財 | 後期 |
前懸 欧風景 毛綴 | 天保3年(1832) | 重要有形民俗文化財 | 前期 |
前懸 「凝視」 山口華楊原画 | 昭和61年(1986) | 重要有形民俗文化財 | 後期 |
胴懸 雲龍図中国刺繍 | 天保3年(1832) | 重要有形民俗文化財 | 前期 |
胴懸 燕子花図 綴織 尾形光琳原画 | 平成5・6年(1993・1994) | 重要有形民俗文化財 | 後期 |
見送飾金具 雁文様鍍金 | 文政3年(1820) | 重要有形民俗文化財 | 前期 |
角飾金具 芦丸文様鍍金 | 嘉永元年(1848) | 重要有形民俗文化財 | 前期 |
欄縁飾金具 波に雁文様鍍金 | 明治36年(1903) | 重要有形民俗文化財 | 前期 |
欄縁旧金具 | 文化14年(1817) | 重要有形民俗文化財 | 後期 |
御神体小物(中啓・鎌) | 重要有形民俗文化財 | 後期 | |
芦 | 昭和45年(1970) | 重要有形民俗文化財 | 後期 |
三日月(新旧) | 重要有形民俗文化財 | 前期 | |
荷茶屋 | 前期 | ||
鬮箱 | 後期 | ||
祇園牛頭天王神号 | 表装、文政9年(1826) | 前期 | |
扁額「芦刈山」上村松篁筆 | 昭和47年(1972) | 後期 | |
「祇園祭」明治五年壬申六月 | 明治5年(1872) | 後期 | |
「祇園祭」安政五年五月吉日 | 安政5年(1858) | 後期 |
※出品する資料は公益財団法人芦刈山保存会の所蔵品です。
※都合により展示資料を変更する場合があります。