琴にまつわる二つの物語を伝える山

伯牙山の意匠には、友を失った悲しみから弦を断って琴を弾かなかったという琴の名手の伯牙(はくが)の話と、王の演奏命令に従うのを良しとせず琴を叩き割った同じく琴の名手の戴逵(たいき)の話のふたつの物語がモチーフとして伝えられています。伯牙山に搭載される人形には斧が握られ、琴を割る様子が表現されており、どちらの物語にも通じる意匠となっています。この山の飾りの姿から、伯牙山は別名を「琴割山」とも呼ばれてきました。
伯牙山を彩る懸装品では、まず前懸の前面にかけられる軸装様に仕立てられた「慶寿詞八仙人図(慶寿裂)」が特徴的です。また、山の周囲を飾る「緋羅紗地唐人物図」の水引は胴懸の中程まである幅広の画面に立体感のある押絵貼が施された華麗な品です。伯牙山の四隅には源氏胡蝶文様の飾金具が装着され、その上部には祇園祭の山鉾にはめずらしい白幣が立てられます。
今回の展覧会では、伯牙山に伝来する貴重な品々を公開いたします。この展覧会を通じて、伯牙山のもつ歴史や文化の素晴らしさをご堪能いただきますと共に、祇園祭の奥深さの一端に触れていただければ幸いです。

前懸 慶寿裂八仙人図 錦織
▲前懸 慶寿詞八仙人図 錦織(慶寿裂)
伯牙山と琴割山

伯牙山(はくがやま)の意匠の元となった二つの話は、それぞれに中国の故事を題材とした趣き深いものです。まず、山の名前となっている伯牙(はくが)は中国の春秋時代の人物で、琴の名手でした。伯牙には鐘子期(しょうしき)という友がいて、鐘子期は伯牙の琴の音色を愛し、その表現を常に的確に讃えました。鐘子期が亡くなると、伯牙は「世の中に琴の音を聞かせるべき人は無くなってしまった」と言って琴の弦を断ち、二度と琴を弾くことはなかったのだそうです。この逸話は親友を示す「知音(ちいん)」という言葉の元になりました。
もうひとつのお話は、少し時代が下がった中国東晋時代の文人である戴逵(たいき:戴安道)が主人公です。戴逵は書画や琴の演奏など諸芸を極めた人物でしたが、ある時、東晋武陵王の司馬晞(しばき)が戴逵を召し出そうと人を遣わしたところ、戴逵は使者の前で琴を割り、私は王の楽人にはならないと言い放ったのだといいます。
江戸時代、伯牙山は「琴割山(ことわりやま)」とも呼ばれていました。伯牙山を有する矢田町(下京区綾小路通新町西入ル)には、明治4年(1871)に琴割山から伯牙山に名称を整えたとの話が伝えられています。

   
見送 五仙人図 刺繍
▲見送 五仙人図 刺繍
角飾金具 舞楽風源氏胡蝶文様
▲角飾金具 舞楽風源氏胡蝶文様
白幣 黒漆塗 鉄線唐草文様鍍金金具付
▲白幣 黒漆塗 鉄線唐草模文様 鍍金金具付
御琴
▲御琴
御斧
▲御斧
胴懸 花卉尾長鳥文様 綴織
▲胴懸 花卉尾長鳥文様 綴織
水引緋羅紗地唐人物図 押絵貼 刺繍(房付)
▲水引 緋羅紗地唐人物図 押絵貼 房付

基本情報

会  期:
2017(平成29)年10月21日(土)〜平成30年1月14日(日)
前期展示 10月21日(土)〜11月26日(日)
後期展示 11月29日(水)〜2018(平成30)年1月14日(日)
休 館 日:
毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
但し11月28日(火)は展示替えのため休室します
※12月28日(木)~1月3日(水)は休館。
会 場:
京都文化博物館 2階総合展示室 京のまつり
開館時間:
10:00~19:30(入室は19:00まで)
入場料:
一般500円、大学生400円、高校生以下無料
*上記料金で、3階フィルムシアターもご覧いただけます。
主 催:
京都府、京都文化博物館
協 力:
一般財団法人伯牙山保存会、公益財団法人祇園祭山鉾連合会


資料名時代指定等展示期間
見送 五仙人図 刺繍江戸時代中期重要有形民俗文化財前期
前懸 慶寿詞八仙人図 錦織(慶寿裂)昭和62年(1987)重要有形民俗文化財前期
水引 緋羅紗地唐人物図 押絵貼 房付平成7〜9年(1995〜97)重要有形民俗文化財後期
前懸 (中)蜀江文様繻珍錦
(左右)淡紅地雲龍文様繻珍
文化10年(1813)重要有形民俗文化財前期
胴懸 花卉尾長鳥文様 綴織安政2年(1855)重要有形民俗文化財前期
後懸 小花唐草文様 錦織明治〜大正時代重要有形民俗文化財後期
後懸 錦織龍文様平成21年(2009)重要有形民俗文化財後期
白幣 黒漆塗 鉄線唐草模文様 鍍金金具付弘化4年(1847)重要有形民俗文化財後期
見送上部飾金具 菊桐唐草文様鍍金享和2年(1802)重要有形民俗文化財後期
角飾金具 舞楽風源氏胡蝶文様天保5年(1834)重要有形民俗文化財通期
角飾金具 菊唐草透し彫り文様嘉永6年(1853)重要有形民俗文化財後期
朱傘竿金具 雲鶴図明治時代重要有形民俗文化財前期
欄縁 黒漆塗 鉄線唐草文様鍍金金具付江戸時代後期重要有形民俗文化財後期
御琴寛政2年(1790)重要有形民俗文化財前期
御斧文政2年(1819)重要有形民俗文化財後期
御冠江戸時代重要有形民俗文化財前期
五鈷鈴寛政元年(1789)重要有形民俗文化財後期
くじ箱寛政9年(1797)通期
金銅釣燈籠慶応元年(1865)通期
扁額「伯牙山」 千宗室 書昭和46年(1971)前期